社長、それは忘れて下さい!?

 駄目押しで旭が忠告するので、涼花は後部座席に乗り込みながら苦笑いを零した。もちろん事前の助言通りにスカートスタイルからパンツスタイルに着替えてきている。

 車の座面に腰を落ち着けてスマホの通知をチェックすると、エリカから『明日のイベント、会場まで一緒に行くよね? 何時に集合する?』とメッセージが入っていた。涼花は少し考えてから『仕事終わったら連絡するね。一番近い駅に集合でいいよ』と返信する。

 ふと顔を上げると、隣に座っていた龍悟が窓の縁に頬杖をつきながら涼花の手元をじっと見つめていた。

「どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない」

 涼花が首を傾げると、龍悟はすぐに目線を外して窓の外に顔を向けた。どうやら涼花がちゃんとイベントに行くのかどうか、監視されているらしい。

 次に龍悟と目が合ったら『心配しなくてもちゃんと行きます』と伝えようと思う。もちろん、助手席に座る旭には気付かれないように。

 しかしそれから約束の料亭に着くまでの間、龍悟と目線が合うことはないままだった。
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