社長、それは忘れて下さい!?

 私なんてしょっちゅうよ、と付け足すエリカの励ましに、涼花はまた元気をもらう。

 エリカの言うように、涼花に非はないのかもしれない。龍悟は涼花を特別に思っているわけではないのかもしれない。

 でもそれでいいとは思えない。無かったことには出来ない。だから週が明けたら、龍悟にしっかり謝罪とお礼をしよう、と密かに決意する。

「それに……」
「ん?」
「ちゃんと覚えていたかったなぁ、って思って……」

 昨夜何があったのか、涼花に詳細はわからない。だが龍悟は人を傷つける悪意のある嘘は付かない。ならば龍悟が薬を抜くために涼花を抱いたのは事実なのだと思う。

 けれど優しく抱かれたのか、激しく抱かれたのか、全く覚えていない。最初の夜と違って、龍悟の熱い視線を、肌を這う指先を、甘い言葉を、一切覚えていない。不可抗力とはいえ好きな人と過ごした夜なら、出来れば覚えていたかったと思うのに。

「涼花、あんたちょっとずるいわ。可愛すぎか」
「な、に、が!」

 からかわれたことに気付いて怒ると、エリカが突然抱き着いてきた。涼花の頭に頬を乗せると、愛犬にするみたいにぐりぐりと頬を押し付けて撫で回される。エリカの飼い犬ほどではないが、髪の毛がぼさぼさに乱れてしまいそうだ。

 そんなエリカにされるがままになっていると、ふと顔を覗き込まれた。
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