社長、それは忘れて下さい!?

 そう、いつもと変わらない。

 昨日あんなに情熱的なキスをして、合コンに行くことに不機嫌な態度をとって涼花を混乱させた龍悟だが、今日はその直前までと何も変わらない素振りだ。それは朝から同じで、いつもの時間に出社して、いつものように涼花の入れたコーヒーを飲むと、いつものように仕事を進めていく。

 龍悟と顔を合わせてどんな顔をすればいいのか、昨日のことについて触れた方がいいのか、無かったことにした方がいいのか。その事ばかりぐるぐる考えていた涼花にとって、龍悟の態度はあまりに拍子抜けするものだった。もちろん業務に支障が出るような態度をされても困るが、綺麗さっぱり何事もなかったような態度でも困惑してしまう。

 だがそう思っているのは、涼花だけのようだった。

「秋野、来月のパーティーの招待名簿と出席者名簿は揃ってるのか?」
「あ、はい。データは共有してありますので確認をお願いします」
「当日の会場案内図は?」
「企画部に報告するよう通達はしておりますが、少々時間がかかっているようですね。催促しますか?」
「そうだな、頼む」

 龍悟の様子はやはり普段と変わらない。肺から溢れそうになる溜息をほんの少しだけ鼻から漏らすと、残りは全て胸の奥に仕舞い込む。
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