スパダリ外交官からの攫われ婚
「じゃあ……志翔さんは父といったいどんな話を? ずっと義母の言う通りだった父があんなにハッキリと意思表示をしたのは初めて見たんです」
泣き声のまま質問を続ける琴に呆れながらも、加瀬は彼女の後頭部に手を添えたままゆっくりと話を続ける。その低い声音が心地良くてまた眠くなりそうになるが、もう少し画の我慢だとギュッと堪えた。
今聞かなければ加瀬の気持ちがどう変わるか分からない、琴にとって彼はまだ謎の多い人物に変わりない。
「別に大した話はしていない。ただ……見落としてるものがあるんじゃないのか、実の娘の幸せを確かめることが出来るのは父親のお前しかいないんじゃないか? そう言っただけだ」
あの時、優造は間違いなくしっかりと琴とも向き合ってくれていた。いつものどこか申し訳なさそうな視線ではなく、母が生きていた頃と同じように真っ直ぐな瞳で。
……それも、やっぱり加瀬の言ってくれた一言が大きいはず。
「志翔さんは私だけでなく、父も助けて旅館の未来も救ってくれたんですね?」
「大げさだ、俺は優造に忠告したのとあんたを攫ってきただけ。それだけしかしていない」
そう言いながらも琴から少し視線を外す加瀬の頬は少し赤いようにも見える。そんな事を言ったら何倍にもなって嫌味が返ってくるだろうと、琴は余計な発言はしない事にした。
――でも聞きたいことがもう一つある。一番私が気になってること、聞いてもいいのかな?
聞けば加瀬が不機嫌になるかもしれない、だが琴は今の疑問をすべて彼にぶつけることにした。
「志翔さんは、どうして私と結婚したんですか? こうして強引に攫って来てまで、私が望んだからだけじゃ普通はしませんよね?」