スパダリ外交官からの攫われ婚


「親や職場の上司やらが煩いんだ、三十を超えたし早く相手を見つけろってな」

 加瀬(かせ)はもの凄く面倒臭そうにそう言うが、(こと)には素直に信じることは出来なかった。何せこの容姿で外交官だ、わざわざ自分のような地味な女を選ばずともいくらでも彼の妻になりたい女性はいるはず。
 きっとその中には琴よりもずっと美人でスタイルが良くて明るい、加瀬に似合う素敵な女性も。

「それは私を攫う理由にはなりませんよね? ここにだって日本でだって、志翔(ゆきと)さんなら相手には困らないはずですから」

「それはそうだが……」

 加瀬の歯切れが悪い、琴がここまで粘るとは思っていなかったのか彼も少したじろいだ様子を見せた。琴には話せない理由なのか、そんな態度を取られてしまうと余計に気になってしまう。

「結婚って一生一緒に居る相手を選ぶってことですよ? それをたった数回会っただけの私に決めちゃうなんて、絶対に変ですよね」

「あんたを攫う理由が必要だったからだ。その方が琴の父親だって安心出来ただろうし、都合が良かった」

 琴が追求すれば加瀬もそれなりの理由は教えてくれる、だがどうしてもそれが決定的な結婚相手の決め手には思えなくて。

「頭のいい加瀬さんなら結婚しなくても私を攫えたんじゃないですか? 攫ってしまって後で理由を父に話しさえすれば……」

 琴はただ頭に浮かんだ疑問を口にしていただけだった、しかしその言葉を聞いていた加瀬はそうではなかったようで。

「そんなに……だったか?」

「……え?」


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