スパダリ外交官からの攫われ婚
らしくなくぼそぼそと喋る加瀬、彼の言葉が聞き取れないで琴は顔を上げる。少し不機嫌そうに寄せられた眉、への字なった口を見て琴は加瀬が拗ねているのだと気付いた。
だが、彼女には加瀬がなぜ不機嫌になっているのか分からない。
「なんて言ったんですか? よく聞こえなくて」
キョトンとした顔で聞き返す琴に、加瀬は苦虫を噛み潰したような顔をする。気付いて欲しい事には鈍感な妻に少し苛立ちを感じてるのかもしれない。
なんでも余裕がある自分でいたいのに、何故か琴には振り回されてばかりになりそうになる。そう加瀬は悩んでいた。
「だから……そんなに俺と結婚するのが嫌だったのかと聞いているんだ」
「え? どうしてそうなるんですか?」
琴にしてみれば加瀬は自分にはもったいないほどのスパダリだ。むしろ彼女の方が結婚相手が自分でいいのかと聞いていたはずなのに、そう思って琴は目を丸くしてしまう。
「あんたが何だかんだと理由を付けて俺との結婚を否定するからだろうが」
「別に否定なんて、してない……つもりなんですけど?」
まさか加瀬がそんなことを気にする性格だとは琴は思ってもみなかった。
ただ加瀬ならもっと素敵な女性が合うのではないか、もう少し時間を決めて考えてもよかったんじゃないかと言いたかっただけで。
それなのに……