スパダリ外交官からの攫われ婚
攫われた結婚は意外と甘くて
「う、ん……」
カーテンから漏れる朝日が眩しくて、琴は少しずつ意識が覚醒してくる。彼女が眠りについたのは朝方だ、まだこの心地良い微睡みの中で揺れていたい。そう思っていたのに……
少しずつ目が覚めてくると、なんだか腰のあたりにやけに重たい何かが巻き付いている事に気付いた。寝相が悪く毛布でも絡まったのかと手を伸ばして、彼女は悲鳴を上げそうになる。
「ゆ、志翔さん⁉」
琴の手に触れたのは思ったより筋肉質な腕、つまりそれは昨日一緒にベッドに入った加瀬のそれに違いない。
ギョッとして目を開ければ、自分が枕だと思っていたものも明らかに昨日の夜とは違っていた。黒くて肌触りの良いシルクの生地、それは昨日加瀬が着ていたパジャマを思い出させる。
つまり……琴はいつの間にか彼に腕枕され、その腕に抱かれて眠っている状態になっていた。
「ちょっと、志翔さん。なんで、こんな体勢に……?」
おかしい、琴が眠りについたのはもう朝方近くだった。それまでは確かに二人は少し離れて眠っていたはずなのに、少し眠っている間になぜこんな状態になっているのか?
起き上がって逃れようとしても、腰に回された加瀬の腕がなかなか離れてくれない。最初は優しく叩いていたが、その力もだんだん強くなっていく。それでも一向に目覚めない加瀬に焦れた琴は、思いきり彼の腕をつねってみた。
「……痛いだろうが、そんなに強くつねらなくても目は覚めている」
「志翔さんっ、あなた本当は起きて……っ⁉」