スパダリ外交官からの攫われ婚
どうりで寝てるにしては随分力が強いとは思った、どうやら加瀬は狸寝入りをしていたらしい。何のためにそんな事をするのかは分からないけれど、とにかくまずは自分を離して欲しい。そう考えた琴は少し乱暴かもしれないと思ったが、後ろにいる加瀬に対し頭突きをしようとした。
「こら! 危ないだろうが」
さすがに焦ったのか加瀬が琴に回していた腕を離し少しだけ距離を取る。その一瞬で彼女はベッドから飛び降りて部屋の端まで逃げた。
温かかった加瀬から離れたせいで少し肌寒くも感じたが、恥ずかしさから琴の顔は火照っている。
「こら、私のセリフです! なんで許可なく私を抱きしめて眠ってるんですか、昨日はちゃんと離れて眠りましたよね?」
琴が起きている間には指一本触れなかったのに、眠りについた途端こんな事をするなんて彼女は考えもしなかった。確かに結婚もしたし夫婦にもなったが、昨日の夜の様子から加瀬は自分に手を出す気は無いのだと思ってたのだから。
「なんで許可が必要なんだ? ただ自分の妻を抱きしめるだけなのに」
「何でって……」
それは琴が緊張するから、まだ心の準備が出来てないから。だがそれは全て彼女の都合に過ぎない、加瀬のいう事も間違ってはいない。