スパダリ外交官からの攫われ婚
攫われて見るパリの街並みは
「準備出来たのか、じゃあ出掛けるとしよう」
琴が支度を終えて部屋から出てきた時には、加瀬はすでに準備を済ませソファーでスマホを弄っていた。彼はスッキリしたシャツに黒いスラックスという姿なのに、それだけでモデルのように見えるから琴の方が気後れしそうになる。
当然のように手を差し出した加瀬に、琴はなかなか自分の手を乗せることが出来ない。
「あの、手を繋がなくても私は迷子にはならないので……」
「そういうために繋ぐんじゃない、分かるだろ?」
そう言われてしまうと、言い返す言葉が無くなる。琴だって手を繋ぎたい気持ちはあるのに、どうしても自分と加瀬では釣り合いが取れてないことが気になってしまっていた。
しかしそんな琴の不安や戸惑いも全部吹き飛ばすように、加瀬は彼女の手を掴み強引に外に連れ出した。
「どこから見て回ろうか? 琴はどんなものが好きなんだ?」
加瀬と琴の住んでいる建物はパリの中心部から少し離れている。それでも二人は手を繋ぎ、ゆっくりと歩いて見て回る事にした。
普段自分が欲しいものなどほとんど我慢しなければならない生活だった、こうしてなにが好きかと聞かれると琴は悩んでしまう。
「ええと、そうですね。私は綺麗な景色とか可愛い物、それに……ちょっとだけ甘い物も」
「そうか、ここにはあんたの好きそうなものが沢山ある。一日ではきっと足りないな」