スパダリ外交官からの攫われ婚

 どうやらジュリアはここの講師を相当気に入っているようで、嬉々とした表情を浮かべてそう話してくる。そんな彼女が可愛く見えて、(こと)もなんだか微笑ましい気持ちになった。
 恋するという気持ちがどれだけ素敵なものかを知った彼女には、ジュリアの気持ちも分からなくはない。ドキドキやソワソワ、隠しきれないときめきも全部その人だけがくれる特別なものだから。

 ――私も志翔(ゆきと)さんを前にすると、こんな顔をしてるのかもしれない。

 琴が頭の中でそんな事を思い浮かべていると。後ろの扉から背の高い男性が笑顔で教室内へと入ってきた、彼がジュリアの言うイケメン講師のようだ。
 少し癖っ毛だが柔らかそうな明るいブロンドに、ほんのちょっとだけグリーンを混ぜたような澄んだ海色の瞳。背は加瀬(かせ)と同じくらい高く、どちらかといえばスラッとした体型だ。細いと言ってもナヨナヨした感じはなく、筋肉はきちんとついている感じがする。これは確かにモテるだろう琴は思った。
 しかしその男性をよく見ると、琴の記憶のどこかに引っかかった気がしてなんとなく首を傾げる。

「あれ? 君は確か……あの日迷子になっていた子?」
「え? ……あ、貴方はもしかしてあの時の⁉」

 迷子になった覚えはないが、確かにスーパーを探して歩き回っていたのは事実だ。その時に声をかけてくれた青年が、まさかここの講師だとは琴も想像していなかった。
 迷子と言われたせいで、周り生徒の視線を集めてしまい琴は恥ずかしさで俯いてしまう。そんな彼女をジュリアが庇うようにして講師に話しかけ、すぐに話題を変えてくれたのだった。


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