スパダリ外交官からの攫われ婚


 ジュリアはルカの発言に何も反論しようとはしない。ただ彼の言葉に、ほんの一瞬だけ彼女が傷付いた表情を浮かべたようにも見えた。
 祖父の差し金だと気付いていても、彼女を利用するしかなかったルカの心境は複雑だったはず。

「……ピエロみたいだと、自分でも思うよ。こんな事に巻き込んで、二人に申し訳なさも感じてる。だけど、なんか少しだけ楽にもなったかな?」
「ルカ……」

 そう話すルカの声は少しだけ明るくもなっていた。
 もちろん祖父の期待を裏切った申し訳なさはあるのだろうが、やっとそのプレッシャーから解放され身軽になれたようにも見える。

「ユキト、警察を呼んでくれる? 僕はここから逃げるつもりもないし、犯した罪はきちんと償うよ」
「お前には悪いが、今の俺は大切な妻を一分一秒でも早く安全な場所で休ませてやりたいんだ。という訳で、これ以上お前に構ってる時間は無い」

 そう言うと加瀬(かせ)はドレス姿の(こと)を軽々と抱き上げて、扉に向かってさっさと歩き出してしまう。そんな彼に一瞬呆気に取られてしまったルカだったが……

「はあっ⁉ ここまでしっかり話を聞いておいてなんの放置プレイだよ、ソレ?」
「はいはい、じゃあな」

 一度も振り向かず扉から出て行ってしまった加瀬に恨めしそうな視線を向けていたが、やがて諦めたようにルカはその場に座り込んだ。綺麗なブロンドの髪を手でクシャクシャにして大きな溜息をつく。

「キミは行かないの? もう祖父からの指示された事は全部終わったんじゃない?」
「一度だけきちんと言わせて欲しいんです。ルカ、私は貴方の事が……」

 とても小さなジュリアの呟き。その言葉に動けなくなったルカだったが、その不思議な色の瞳だけが彼の心を表すように大きく揺れていた――


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