スパダリ外交官からの攫われ婚
だからと言って自分の未来を「はい、そうですか」と人に任せられるわけがない。たとえそれが琴のためだと言われても、自分の未来くらい自分で決められると彼女は思った。
「私には見合いなんて必要ありません、だから……ひっ!」
断ろうとする琴の顔を見る継母の瞳はゾッとするほど冷たいものだった。まるで自分の思い通りにならない琴を憎むかのような、そんな目で見つめてくる。
「もう、我儘は駄目よ? 琴さんのことを相手も方も気に入ってらっしゃるし、年齢が離れていることや再婚だということくらい大目に見ないとね?」
「再婚……? ではその方は一体おいくつなんでしょうか?」
年が離れていることは聞いていたが、再婚とまでは教えられていない。まさかと思うが継母たちは自分をとんでもない相手の再婚相手にしようとしているのではないかと琴は疑ってしまう。
「確か五十一歳だったから? でもね、お仕事もしっかりされてるし財産だって……」
楽しそうに話す継母を見て、琴は身体の震えが止まらなくなる。もしかして厄介払いにわざとそんな年の離れた相手を選んだのではなかろうか?
本当にいい話だと思うのなら、間違いなくこの人は自分の娘に勧めるはず。ならばこの話はきっと……
「お母さん、私は見合いなんてしません! 私はこの旅館に残って母のそばにいたいんです」
「……そう、優造さんも乗り気なのにきっとガッカリするわ。琴さんは親不孝ね、この旅館を残すために必要なお話なのに」
わざとらしい言い方をして継母は大袈裟にため息をついて見せる。しかし彼女が言った言葉に引っ掛かりを感じた琴は……
「この旅館を残すためって、どういうことですか……?」