スパダリ外交官からの攫われ婚
「……琴さんには話さなかったけれどね、実はこの旅館の経営が厳しくて――――」
琴は自分の持ち場に向かいながらも、頭の中は継母の言葉でいっぱいだった。旅館の経営は父と継母に任せ、琴はノータッチで今まで何も聞かされてはいなかった。
いきなり聞かされた経営難だということもショックだったが、継母はそれに重ねるように琴に頼みごとをしてきたのだ。
『琴さんが見合い相手と結婚することが、この旅館を支援する条件なのよ。だからお願い、この旅館を大好きな琴さんなら分かるわよね?』
琴にとってこの旅館は特別な場所、ずっとここに居たいのにこの旅館がなくなるかもしれない。母と過ごしたこの旅館を残したい気持ちもあり、それ以上継母に嫌だと言えなくなってしまった。
掃除をしながらも頭の中からこれから先のことは離れてくれることはなく、自分を犠牲にするしかないかと諦めそうになる。
「琴、見合い話を受けてくれるそうだね。美菜さんから聞いたよ」