スパダリ外交官からの攫われ婚


 自分ではないみたい、まさにその言葉がぴったりだと(こと)は思った。
 こんなに自分の瞳は大きかっただろうか? 鼻はこんなに高かったか、肌はこんなに綺麗かったかとパーツ一つ一つまで違って見えた。
 いつも化粧しても未成年と間違えられる童顔はプロのメイクで大人の女性へと変えられ、コンプレックスに感じていた背の低さも琴にぴったり合わせられたドレスで全く気にならない。

「これ、鏡にモデルさんの写真がはめ込まれてるとかないですよね?」

 鏡に映った自分に夢中になって、琴は後ろを振り返りもせずにスタッフの女性に声をかけたつもりだった。

「そんなことして何になるんだ? どう見ても鏡に映ってるのはあんただろ」

 後ろから聞こえてきたのは、さすがに聞きなれてきた男の声。まさか控室に入ってきているとは思わず、琴は慌てて両手で顔を隠してしまう。
 綺麗になったのだから堂々としてればいいのに、琴は加瀬(かせ)に今の顔を見られることが恥ずかしかった。

「何で隠す、あんたは俺の花嫁だろうが」

「後で好きなだけ見れますし、その時までの楽しみに取っておいてはどうでしょう?」

 そう言って琴は頑なに加瀬のほうを向こうとはしない。見なくたって簡単に想像できる、きっと加瀬のタキシード姿は素敵なはずだ。


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