スパダリ外交官からの攫われ婚
そう言って琴を抱き寄せた加瀬の腕は優しかった。もっと強引で自分勝手だと思っていたのに、まるで壊れ物でも扱うように琴に触れた。
調子の狂う事ばかりする人だと琴は思う。人の言うことをあまり聞かずに自分をここまで連れてきたくせに、こんな時はすごく優しい。
「あの、ドレスが……それに加瀬さんのタキシードも」
せっかくお互い綺麗にセットしてもらったのだ、式の前にしわになっては困ると思い琴は加瀬にそう言った。
「そうだな、続きは家に帰ればいくらでも出来る。楽しみは取っておかないと」
「つ、続きって……?」
悪戯そうな笑みを浮かべる加瀬に、琴は真っ赤になって彼から離れようとする。残念ながら後ろは大きな姿見と真っ白な壁で、逃げる事なんて出来なかったのだが。
この歳まで恋人を作る間もなく忙しく旅館の手伝いをしてきた琴に、加瀬の発言は過激すぎて彼女の頭からは湯気が出そうになっていた。
お付き合いすることもなく結婚することになった琴には、想像出来ないような新婚生活が始まるとも知らず。