スパダリ外交官からの攫われ婚


 ここに来れない(こと)の父の事を考えて、バージンロードは新郎である加瀬(かせ)が一緒に歩くと言った。どうしようかと琴が心配していた事は、全て加瀬が先回りして解決してくれている。
 彼の事を知るたびに、加瀬が本気で琴との結婚を望んでくれていると分かっていく。信じてもいいんじゃないかと、そう思えてくる。
 
「心の準備は出来たか?」

「出来るように今、努力しているところです」

 もう出来ていますとはまだ言えないが、加瀬とならやっていけるような気がしている。琴は緊張で震えそうになる身体に力を入れて、加瀬の腕に自分の手をそっと添えた。

「そうか、その調子で頑張るんだな」

 そう言って笑う加瀬は少しだけ意地悪だった。自分も頑張ると言ってくれればいいのに、と琴は思う。だがそんな文句を口にする前に、加瀬に「行くぞ」と言われて……
 開いた扉、祭壇まで続くバージンロードを見て琴は、この瞬間は自分達が主役になっているんだと気付かされる。
 自分の親族もちろんだが、気を使ったのか加瀬の親族もいない。たった二人で牧師の前まで歩く、それでも琴はこの時間だけは自分が特別になれた気がしていた。


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