スパダリ外交官からの攫われ婚
救急箱を片手に加瀬が大股で近づいてくる。怒って出て行ったのではなく、薬箱を取りに行っていたのだと分かると琴は少しだけホッとした。
琴の前で立ち止まった加瀬はソファーに薬箱を置くと、両手を彼女の脇に差し込み抱き上げるとまたソファーに座らせる。
「手間をかけさせるな、あんたは眠っている時にしか大人しくしてられないのか?」
ブツブツと文句を言いながらも、琴の足首にシップを貼る手の動きは優しい。そのまま取り出した包帯を丁寧に巻いて、やっと加瀬はその手を離した。
「あ、ありがとうございます」
「別に。痛みが続くようなら言ってくれ、病院に連れて行くから」
そう言うと加瀬は薬箱を持ってまた寝室へと向かう。今度は慌てて負う必要はない、彼が琴の隣に戻ってきてくれると分かったから。
「そう言えば、服はどうすればいいのかしら?」
琴は今だバスタオルを巻いただけの格好だ、流石にこのままでは風邪をひいてしまうかもしれない。どうしようかとキョロキョロしていると……