Don't let me go, Prince!
「あなた、名前は?お父さんか、お母さんは近くにいる?」
見える場所にはこの子の親はいなさそうだけれど……もしかしたら家にいるかもしれないと思い聞いてみる。
「俺はシュン……、お父さんもお母さんも、今は仕事に行っている。痛いよ、お姉ちゃん。」
「そうなのね、シュン君はお母さんの電話番号分かる?」
そう聞くと、彼は小さなカードを取り出して見せてくれる。カードには名前と親の電話番号化が記入されている。
私は急いでスマホで電話をかけて、親御さんに今からシュン君を、病院に連れていくことを伝えた。
「シュン君、私の車までちょっと我慢してよね?」
私はシュン君を抱き上げると、急ぎ足で自宅へ向かう。ここが家の近所で良かったわ。
自宅に戻り、車の後部座席にそっとシュン君を横にならせてから、運転席に乗り込む。
シュン君から普段行っている病院を聞いてナビに入れて出発。
急ぎたいけれど、けが人を乗せているから安全運転しなくちゃね。
病院に着くとまだシュン君を抱きかかえて受付へ。木から落ちたことを必死に説明していると、奥から背の高い男性の医師がやって来た。
「……貴女の子供が木から落ちたのですか?」
ずいぶん落ち着いた感じの男性医師だけれど、何というか無表情?この人に話していいの?
「えっと、私の子供ではないのですが……私の目の前で木の枝から足を滑らせて落ちたんです。高さは3mくらいあったかも……?」
「そうですか。すぐに診ます。診察室1に入ってください。」
それだけ言うと、男性医師は私をちらりと見た後、さっさとまた奥の方に行ってしまった。
「ずいぶん変わった先生ね、見た目は若くてカッコ良かったけれど。」