Don't let me go, Prince!
車の前まで来ても弥生さんは繋いだ手を離そうとしない。彼だけじゃない、私もまだ弥生さんの手を離したくはなかった。
もう少しだけこのままの二人でいたい、そう思える大切にしたい時間。
「びっくりさせましたよね、すみませんでした。」
弥生さんはゆっくり振り返って、私の空いた方の手も握った。両方の手が弥生さんに捕まり私は後ろに下がる事も出来ない。
「あ、びっくりはしましたけど……本気、なんですか?」
あまりにも突然の事でまだ信じられないの。弥生さんがそんな冗談を言うような人ではないとはちゃんと分かっているけれど。
それでもお付き合いも何もなくいきなり「結婚しませんか」なんて……
「私は本気ですよ。今日は最初から渚さんにプロポーズするつもりで来ましたから。」
「そう、ですか……」
まっすぐな彼の黒い瞳に見つめられ、私は素直に弥生さんの言葉を信じてもいいのではないかと思った。
彼はきっと誰より私の事を想っていてくれている。彼となら幸せな家庭を築けるんじゃないかって。
「返事は今でなくても構いませんから――――」
「受けます。」
弥生さんが言葉を言いきる前に私は彼に求婚の返事をする。私の中にもう迷いはなかった。今、弥生さんの傍にいたい気持ちを一番大切にしたい。
「渚さん?返事は急がずゆっくり考えていいんですよ?」
「はい、ちゃんと考えました。……弥生さん、私を貴方の妻にしてください。」
「喜んで……」
こうして私は弥生さんの求婚を受けて、あっという間に結婚式を迎えた。
弥生さんにこれから特別に愛されるのだと、胸を弾ませて。新しい生活を期待していたの。
それから始まる二人の新婚生活があんなに冷たい関係になるとは、この時は少しも想像していなかった。