Don't let me go, Prince!
確かめ合うのは愛か信頼か?


 私が覚悟を決めた夜、弥生さんは19時ぴったりに帰ってきた。時間ぴったりに戻ってくるところが彼らしい。

 鍵のかかって無いドアを確認した弥生さんは少し驚いた様子だったけれど、私は昨日と変わらない笑顔で彼に「お帰りなさい」と言った。

「渚、本当にいいのですか?」

「食事、もう準備しておいたから一緒に食べましょう?」

 私の意思を再確認しようとする弥生さんの言葉を無視して、私は食事に誘う。ここにいる時点で私の気持ちは決まっているのだから聞かないで?
 弥生さんが頷いてくれたから2人で静かに食事をして、弥生さんにお風呂に入ってもらう。私は弥生さんが帰ってくる少し前に時間のかかりそうなお風呂は済ませていたから。
 私はソファーに座って彼がお風呂を済ませて戻ってくるのを待つ。この時間がとても長く感じるわ。

 下を向いているといつの間にか弥生さんは目の前に来ていた。弥生さんは右手で私の頬に触れ、私に顔を上げさせる。

「渚、まだ間に合いますよ?」

 そんな優しい言葉で、私を逃がそうとしないでよ。私は貴方にちゃんと捕まえていて欲しいの。

「これ以上私を逃がさないで、弥生さん。」

 頬に触れた手に自分の手を添える。もっともっとこの手に触れて欲しいと私は望んでるの。弥生さんだって私に触れたいと思ってくれてるのならば……

 私の言葉で、弥生さんは私を抱き締めた後ベッドへと連れて行く。優しくベッドへと押し倒されて、緊張で震えてしまう。
 抱かれることは初めてではないのに、まるで初めてのような気持ちで弥生さんと向き合う。

「怖いのですか、渚。もう止めてあげれませんよ?」

 優しい声で私を縛り付けたかと思うと、ゆっくりと触れてくる弥生さんの唇。何度も啄むように触れた後、彼の舌が初めて私の口内へと侵入してきた。


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