フォンダンショコラな恋人
『宝条さん……。宝条さんにとって今回の件はもしかしたら不本意かもしれない。けれど、この経験は君にとっていい経験になったと思うし、僕は君はいい査定人になれると思う。保険会社にとって、支払い保険金は大事なお客様をお助け出来る機会であり、それが本来の仕事なんだよ。お預かりしているお金を、適正に払う。それは、義務だと思う』

仏がかっこよく輝いて見えた瞬間だ。
後光が差して見えた。

査定部署には基本中の基本のことではあるけれど、その基本をブレずにいることが、どれほど難しいか。

むしろ、その基本がしっかりしているからこそ、不正を見抜けたのではないかと翠咲は思っている。

『困った時に、困った人に』
それが、翠咲のプライドだ。

何かあった時のために、と何年も掛けて下さって、支払いの際に『お手を煩わせちゃって、ごめんなさいね。今後は気をつけます』と言ってくださる方がいる。

『本当に大変だったから、支払ってもらって、とても助かったわ』と言ってくださる方も。

翠咲にとっては、そんなお客様こそ、大事なお客様だ。
そんな人達をがっかりさせるようなことはしたくない。
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