フォンダンショコラな恋人
けれど、少しだけ目を伏せた翠咲は小さな声で
「予定が合えば、また声かけてください」
と言った。

「連絡します」
どうやら嫌ではないらしい。
倉橋は一瞬で浮き足立ったのだが、多分それは翠咲には伝わっていないだろう。
自分の感情は伝わりにくいと分かってはいる。



そうして迎えた土曜日。
まだ少し明るい16時には屋上を解放するというので、倉橋もこの日ばかりは私服で翠咲の会社に向かった。

「いらっしゃいませ。お名前をお伺いしてよろしいですか?こちら注意書きです。よろしくお願いいたします」
会社のロビーで受付をしていたのは、翠咲だった。

「宝条さん……」
「あ、倉橋先生。いらっしゃいませ」

「用事って……」
「はい。こちらの受付のお手伝いに」

会社のロビーは、普段とは違って私服や浴衣の女性もいて、なかなかに華やかな雰囲気だった。
その様子を倉橋は物珍しげに見まわす。

「華やかだな」
「お祭り、ですからね」
翠咲も私服である。
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