フォンダンショコラな恋人
無言のここにおいで、に翠咲は資料を取り出し、てくてくと陽平の隣に行って横に座った。
そんな距離感には、まだ翠咲は照れてしまうのに、陽平はそうでもないみたいだ。

「え……と、失礼します。でも作業しにくいよね! 良かったらもう大丈夫だから、デスクトップを使って!」

「いや。普段もここでこうして作業することの方が多いんだ。それより、君がそばにいてくれることが嬉しいから」
そんな風に言われると本当に照れてしまう。

「実感したいんだよね。だから、そばにいてよ」
「はい……」
翠咲はそう言って、横で資料を読み始めた。



陽平は翠咲が時折、隣でパラ、パラ、と紙をめくる音をさせているのを、聞くともなしに聞いていて、口元に笑みが浮かびそうになるのを堪えていた。

懐かなかった猫を手懐けたような気分でもある。

きっと上手くない自分は、このまま翠咲に嫌われれてしまうのかもしれないとも感じていたけれど。
まあ、それでも陽平が本気になっていたならば、諦めることはなかったはずではあるが。
その時、陽平は紙をめくる音が止まっていることに気づいた。
< 155 / 231 >

この作品をシェア

pagetop