フォンダンショコラな恋人
──ん?
隣を見てみた。
翠咲が目を閉じている。

昨日はあまり寝ていないだろうし、おそらく眠くなってしまったのだろう。
そして、着替えを持ってきていなかった翠咲は今、陽平の部屋着を着ているのだ。

陽平のぶかぶかの部屋着を着て、うとうとしている彼女という光景は、なんというか……尊い。
ゆるーっと傾いてきたその身体を陽平は受け止めて、そっとクッションに乗せた後、膝にゆっくり倒す。

まあ確かに、昨夜はゆっくりと寝かせることができなかったことは認める。

パサリ、と音を立てて、翠咲の手から資料が落ちた。
そっとその資料を持ち上げて、陽平は笑ってしまった。

『判例タイムズ』
基本的には交通事故などにおける裁判の判例について記載されているものだ。

けれど、一部その中には翠咲の所属している傷害保険についての判例も載っている。
翠咲はそれを確認していたようだ。
よりにもよって、その文書を陽平の家で見ているというのは笑ってしまう。

──聞きたいことがあるなら聞いてくれてもいいのに。

書類には翠咲がラインを引いてあるページも見えた。
会社ではきっと頼りがいのある上司なのだろう。

そんな彼女が自分の膝で、まどろんでいる状況というのは悪くない、と陽平は思ったのだった。

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