フォンダンショコラな恋人
エレベーターの前で深くお辞儀をする。

ドアが閉まって、翠咲は終わった……と思った。

判決が出たのならば、もう自分にできることはなくて、粛々と上司である沢村の指示に従うだけだ。

それにしても渡真利すらお見事、と言わせた倉橋の手腕はやはり素晴らしいのだろう。

『まかせなさい』
そう言った時の倉橋が、翠咲の頭をよぎる。
有言実行って、カッコよすぎでしょ。



翠咲は、その日の仕事を少し早めに片付けて、エレベーターで階下に降りる。
今日は気持ちが一区切りついたので、早く帰りたかったのだ。

すると、ロビーのソファで倉橋弁護士が座っているのを見かけた。

翠咲の姿を見て倉橋が立ち上がるので、翠咲もソファーセットに向かって歩いていく。

「倉橋先生、まだいらっしゃったんですね。お疲れ様です」
「いや、今日は結構早いんだな」

「はい。おかげさまで案件が一段落しましたし今日はもう帰ってしまおうかと思って」
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