辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 次第に大きくなる歓声と拍手の音は大きなうねりとなってあたりを覆い尽くす。ぐわんぐわんと反響しながらまるで逃れることなど許さないと言いたげに、サリーシャを包み込んだ。

 今日、タイタリア王国の未来の国王が正式にその伴侶を選んだ。将来の国母となる、唯一無二の尊い女性を。多くの美しく咲く花々の中で、選ばれるのはたった一輪だけ。どんなにその座に近づこうが、選ばれなければ皆同じ。その他大勢は主役の大輪を引き立てる添え花でしかない。

 そして、その座を見事に射止めたのはエレナ=マグリット子爵令嬢だった。艶やかな薄茶色の髪とクリッとしたこげ茶色の瞳に、透けるような白い肌。未来の王妃にふさわしい、とても可愛らしく、聡明な女性だ。
 サリーシャも笑顔を浮かべ、二人に惜しみない祝福の拍手を送った。

 ──でもね、おかしいの。

 サリーシャはぼんやりと目の前の光景を眺めた。
 目の前で笑い合う人達が、まるで演劇のように現実感なく見える。
 これが夢だったらいいのにと思ってしまう。永く続く、壮大な夢物語。

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