辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
    ◇ ◇ ◇


 サリーシャは無我夢中でセシリオの部屋の前から走り去ると、自室に戻った。後ろ手でバタンとドアを閉じると、両手で顔を覆った。

『本当に見るに堪えない醜い傷があるのならば俺の妻には適さないのかもしれない』

 セシリオの言葉が脳裏に蘇る。サリーシャは立ち上がりドレスを乱暴に脱ぎ捨てると、姿見の前に体を斜めにして後ろ向きに立った。恐る恐る鏡を振り返ると、夜の薄暗い部屋でもわかるほど、はっきりと背中には傷跡が残っていた。

「なんで、なんで! なんでよ……。なんでなの……!?」

 口から零れるのは嗚咽混じりの悲鳴。

 なぜ自分にはこんな醜い傷があるのか。もう何ヶ月も経っているのに、どうして一向に消えないのか。そもそも、あの時にあんな男さえ現れなければ、あの男がフィリップ殿下とエレナに刃を向けたりしなければ、自分はこんな醜い傷を負うこともなかったのに。
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