辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「なんてことっ!」

 サリーシャは慌てた。
 どうすればいいのかと途方に暮れていると、トン、トン、トン、トンと部屋をノックする音がした。入室を許可する返事をすると、初めて会う女性が顔を覗かせた。年の頃はサリーシャよりも随分と上に見えて、自分の母よりも年上だろうと思った。白髪交じりの栗色の髪を後ろで一つに纏めた、優しそうな雰囲気の女性だ。着ている紺色のワンピースは、昨日到着した時にこの屋敷の使用人達が着ているのを見かけた。

「おはようございます、サリーシャ様。わたくしはサリーシャ様のお世話係を任命されました、クラーラと申します。どうぞ、クラーラとお呼びください」

 クラーラと名乗った女性はにっこりと微笑むともう一度お辞儀をした。呆然と立ちつくすサリーシャの前を横切って、少しだけ開いていたカーテンを順番に全部開けてゆく。窓の外からは眩しい光が差し込み、壁紙が白く浮き上がった。サリーシャはその眩しさに、少しだけ目を細めた。

「よくお休みになれましたか?」
「……ええ」

 よく休めたどころか、初めて訪れた場所にも関わらず、休み過ぎた。いくら長旅の疲れが出たとはいえ、サリーシャがしたことはとても失礼な行為だ。セシリオが怒って、この婚姻話はなかったことに、といい出してもおかしくないくらいに。
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