政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「本当に素敵な着物」

 着物をレンタルする余裕なんてないし、成人式に行くなら働いていたほうがいいと思っていたから行くつもりはなかった。

 だけどきっと、母が生きていたら私の晴れ姿を見て喜んでくれたはず。……うん、この着物を着て成人式には必ず出席しよう。

「その前にお見合いだよね」

 着物を片づけて布団を敷き、スマホを手にして横になる。目覚ましをセットしてからお見合い相手を調べようとしたけれど、途中で止めた。

 どんな相手だってたった一度しか会わないのだから、前もって調べることはないよね。それよりも明日は忙しいんだから早く寝よう。

 枕元にスマホを置いて就寝した。

 それから毎日借金返済と瑠璃の治療費を少しでも多く稼ごうとできるだけシフトに入れてもらい、その合間に瑠璃のお見舞いにも行き、お見合いの日まで目まぐるしく過ぎていった。

 そして迎えた、お見合い当日。

 伯父が着付けとヘアセットを予約してくれて、朝早くから美容院で準備を済ませ、伯父の車で見合い会場に向かったわけだけれど……。

** *

対面を果たしても彼はただ頭を下げただけで、料理が運ばれてくるまで一言も言葉を交わさなかった。
 それでやっと放った開口一番が、『俺と結婚して子供を産んでくれたら、借金はもちろん、妹さんの医療費もすべて支払う』だった。

 それも見るからにからかっているようでも、冗談で言っているようでもない。

 伯父からこの話を聞いた時から、ただ単に私とお見合いをしたいという理由だけではないと思っていたけれど、彼が本気で言っているとしたら?

 彼と結婚して子供を産めば借金だけではなく、瑠璃の医療費も払ってくれるなんて……。

 完全に私にしかメリットがないように思う。だって彼ほどの人なら、いくらでも無条件で結婚して子供を産んでくれる人はいるはず。それなのに、どうしてわざわざ私と?

 彼の真意が読めず、私はしばらくの間、なにも言うことができなかった。
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