政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「いつもありがとうございます」

 心から感謝の思いを伝えれば、おばさんは目を潤ませた。

「なに言ってるんだい、私と千波ちゃんの仲だろ? ねぇ、あんた」

 おばさんが店の奥でコロッケを揚げているおじさんに声をかけた。

「あぁ、もちろん! 千波ちゃんは俺たちの……いや、商店街みんなの娘みたいなもんだからな」

「そうそう、だから遠慮はいらないよ」

 嬉しい言葉に胸が熱くなる。

「ほら、一個は揚げたてのうちに食べちゃいな」

「は、はい」

 渡されたのは本当に熱々のコロッケ。フーフーと冷まして口に入れても熱くて、だけどそれがまたおいしい。
 じゃがいもと肉のバランスが絶妙で何個でもいけちゃう。

「本当に千波ちゃんはおいしそうに食べるねぇ。その顔見たさになんでもあげたくなっちゃうよ」

「本当においしいですから」

 それにこうして好意をもらえなかったら、コロッケなんてなかなか買えないもの。

「嬉しいことを言ってくれるね。どれ、メンチもサービスしておくよ! まだ面会時間まで時間はあるんだろ? 一度家に帰って熱々を食べてから病院にお行き」

「はい、そうします。……ありがとうございます」

 コロッケとメンチカツが入った紙袋を受け取って改めてお礼を言い、歩を進めれば視線の先には綺麗な夕陽が見える。

 美しい景色を見るたびに、大丈夫、まだ頑張れるって思えるよ。
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