政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
 私、来栖(くるす)千波は代々から続く旅館を経営する両親の長女として生まれた。幼い頃から仕事する両親の姿を目の当たりにして尊敬していたし、私も大きくなったら母のように女将として働くのが夢だった。
 しかしその夢は、一年前に永遠に叶わなくなってしまった。

 私が高校三年生の頃に母が大病を患い、一年の闘病生活の末に亡くなった。両親の夫婦仲は良く、互いになくてはならない存在だった。母が床に臥せるようになってから父の覇気はなくなり、仕事にも身が入らなくなってしまった。

 そして母の死期が近づいてきた頃には、子供ながらに父の姿を見ていられないほどつらそうだった。

 母が亡くなり悲しみの中葬儀を済ませた後、いつの間にかできていた多くの借金だけを残して蒸発した。経営者を失い、多くの借金だけがある旅館を続けていくことは叶わず、父の代で旅館は倒産。

 私は借金返済と生まれた時から心臓が弱く、入退院を繰り返している三つ下の妹、瑠璃(るり)の治療費を稼ぐためにわずか一年しか通っていない大学を中退し、今は旅館があった商店街の本屋と土産物店をかけもちで働いている。
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