政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
 そうだ、庵野さんだって好きでもない私と結婚してもいいの?

 すると庵野さんは淡々と話し始めた。

「俺は幼い頃からずっとキミと結婚するよう言われてきたから、むしろキミ以外の女性と結婚すること自体考えられないよ」

 なにも事情を知らずに聞いたら、ドキッとするような話だけど、すべてを知った今はむしろ胸が苦しい。彼が私に結婚を望むのは、ただ単に一族の繁栄と責任感からなのだから。

 でも愛のない結婚をしたって、瑠璃が助かるならそれでいいと思っている私も同罪だ。瑠璃を助けてくれるなら、彼の願いを叶えたい。
 覚悟は決まり、小さく息を吐いた。

「こんな私でよければ、庵野さんと結婚して子供も産みます。だからお願いします、どうか瑠璃を助けてください」

 どうか助けてほしい一心で深々と頭を下げた。

「もちろんだ」

 次の瞬間、強い力で手を引かれて優しく抱きしめられた。

「もう逃がさない」

 別に深い意味などないはずなのに、また勘違いしそうになることを言われ、胸が高鳴る。

 これは互いの利害が一致した結婚に過ぎない。瑠璃が助かるならなんだってできる。……そう思う反面、愛のない結婚を受け入れることができたのは、庵野さんが優しい人だからかもしれない。

 こうして病院まで付き添い、優しい言葉をかけ続けてくれた。きっと悪い人ではないはず。

 それになにより、私を抱きしめる腕はすごく温かい。このぬくもりを信じてみたいと思った。最初は愛のない結婚だとしても、ともに過ごすことで心から彼のことを好きになる日がくるかもしれないと。
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