たぶん、きっと、すき。
気付いたら手が出ていた。
大きな音を立て尻餅をつき頬を抑えながら俺を睨む弟。
すると物音に反応したのか母親が走って玄関に向かってくる。そしてこの様子を見た母親は俺が何をしたのかすぐに察し俺をにらんだ。
「いい加減にしなさい!学校もろくに行かない。就職すらしない。バイトは長続きしない。こうやって朝帰りもする。その上自分の弟にまで迷惑をかけるの?あんたをそういう風に育てた覚えなんてないわ!」
言い返す言葉なんて見つからなかった。
でもそれでも納得が行くわけなくて、そんな自分が余計惨めで情けなくて。
「そんなにこの家が気にくわないなら出て行きなさい。あなたももう二十歳でしょ。自分の力で勝手に生きなさい。もう、私やお父さんが面倒を見る必要なんてないでしょう。」
ああ。
いよいよ追い出されるのか。
だっせえなあ。
変えられないんだ。どうしようもない、ダメな自分だとわかっていても、自分を律して正しくすることなんてできないんだ。
抜け出せない。
頑張りたいと思ってもどうしても頑張れなくて、続けたいと思うことも続けられなくて、自分が社会に適合できないことなんてとうの昔に気付いていた。
それでも、そのうち、歳を重ねて大人になればいつかは当たり前のように頑張れるものだと思っていた時期もあった。
でも、現実はそんな甘くなくて。
社会不適合者はいつ迄経っても社会不適合者のままだった。
追い出さないでくれよ。
見捨てないでくれよ。
頑張り方を教えてくれよ。続け方を、足掻き方を、周りと同じように”普通”に生きる方法を教えてくれよ。
俺は普通じゃない。
普通に生きられない。
なら、せめて、誰かの特別になりたい。
たった一人だけでいい。
たった一人、俺を、必要としてくれたら、それだけでもういいからさ。
そして、それが、さっちゃんであってくれるなら、そうしたら俺のクソみたいな人生も色を帯びる。
神様。
俺を、一人にしないでくれ。