無彩色なキミに恋をして。

もちろんそんな理由
燈冴くんが知るはずもない。

「まさか…
 あの人に脅されているのでは…」

「ち、違うよ!
 そうじゃない!」

沈うつな表情で青ざめる燈冴くんにすぐさま否定はしてみたものの、不安げな顔つきは変わらない。

これ以上どうしたらいいんだろう。

元宮さんに言われたあの日、あの瞬間から
自由にするってどういう事なのか
長く一緒にいる相手に『もう嫌い、さよなら』なんて、出来るはずがなくて。
考えても他に方法がわからない結果がコレ。

「考えが幼稚すぎて情けないよね…
 困らせてばかりで…ごめんなさい」

頭を下げると目の奥が熱くなって視界がボヤけてくる。
わたしが泣くなんて間違っているのに
必死に堪えたって瞬きしたら涙が零れそうで
膝の上で組んだ両手をグッと握って顔を上げられない。

「緋奈星さま…」

頭上から優しくわたしを呼ぶ燈冴くんの声が
今はツライ。

あなたの顔が見られない

…はずなのに。



そう思ったのは一瞬だった―――



「抱きしめても、いいですか?」

「えッ!?」

聞き間違いかと思い思わずハッと顔を上げてしまい
それとほぼ同時に、スッと彼の両腕が背中にまわされて・・・・
固まった。


許可なんてする間もなく
聞いてるそばから
《《秒》》で有言実行。



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