無彩色なキミに恋をして。

はぁ…
会わないように部屋に戻ってきたのに
起こしに来られたら本末転倒じゃん…。


「…起きていたんですか」

わたしを見るなり彼がキョトンとしているのは
もうすでに着替えもメイクも済ませていることに意外だったからだと思う。

こっちとしてはせっかく身支度したけど
二度寝したおかげでメイクを直したいとこ。

「緋奈星さま?
 どうしました?」

反応しないわたしを不思議に思ったのか
気遣いながら名前を呼ぶから『大丈夫』と
そう声に出したのに。

それは自分でもわかるくらい掠れていて
慌てて口を押えたけれど意味がない。

「喉…傷めているんです?」

あっという間にバレてしまい燈冴くんの目が真剣。
『まさか…』と何かに気が付いたらしく
普段から着用している白い手袋を外して急にわたしの顔に近付けてくるから、咄嗟に”パシン”と手を振り払って拒絶してしまった。

呆気にとられる燈冴くんに
わたしもヤバいって思った。
だけどこうなると、どう言い訳も出来ない。

「…ごめん」

掠れた声で謝罪の言葉だけ残し
彼の脇をすり抜けるように逃げ出してしまった。

それからはもう、ただ無言。
父と共に車に乗り込み
何1つ声を発する事なく仕事に到着し
忙しい仕事に追われた。
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