無彩色なキミに恋をして。

わたしの会社は社員数も多いからか
医務室は看護師が1名常勤していて
ほとんど来る事はないけれどこういう時はありがたい。

「37.8度かぁ…
 微熱だけど、まだこれから上がるかもしれないわね」

他の社員が誰もいない医務室に
40代くらいの看護師さんが対応してくれて
体温計を見ながら『早退した方が良い』って言葉に
少し納得したのは自覚があったから。

「やっぱりそうですよね…。
 だけど早退はちょっと…
 仕事もまだ残っていますし…」

忙しい時期での早退・欠勤は正直イヤで遠まわしに断ったけれど、彼女は困った顔して言う。

「無理して悪化する方が大変だし…
 まわりの社員のためにも
 今日はもう帰った方が良いわ」

言ってる事は正しいから仕方ない。
素直に聞き入れて医務室を後にしようとすると
最後に『お父様はこの事はご存じ?』なんて聞かれて、ふと疑問に思った。

「なぜ父が…?」

関係ないはず。
そう思って聞いてみると
彼女は複雑そうな表情で言いづらそうに答えた。

「あなたに何かあったら、私達社員は社長に顔向けが出来ないのよ…
 ほら、大事な娘さんですし無理をさせるわけにはいかないの。
 まわりも気を遣ってしまいますしね」

『だから全然帰って問題ないわよ』なんて追い打ちまで。

そんなことを今言う必要があったのかな。
それも当人に直接とか…――


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