無彩色なキミに恋をして。
怖くて手元は震えるし全身は硬直したように動かなかったはずなのに、開いたドアから現れた人物を見て、その緊張が一気に解けた。
「とう…ご、くん…」
「緋奈星さまッ!?」
ふらっと眩暈に襲われて腰が抜けたわたしは
その場に力なくへたりこんでしまった。
すぐに駆け寄ってくれた燈冴くんは血相を変えているけれど、わたしはそれよりもホッとしたのが1番。
刺さなくて良かったって。
この人を傷つけなくて
本当に良かった…って
安堵する気持ちとは裏腹に
後からジワジワと後悔と恐怖に襲われた。
包丁を彼に向けてしまい
もしそのまま《《何か》》あったら…って想像したから。
「緋奈星さま…
深呼吸してゆっくりと手を離してください」
きっと今
わたしは酷い顔をしているんだと思う。
けれど、しゃがみこんだわたしの手に燈冴くんが手を添えて『大丈夫ですか?』って優しい言葉でなだめてくれるから。
それだけで怖い気持ちなんて吹っ飛んでしまう。
彼は本当いつも冷静で
いつも優しい人…
離れなきゃって避けていたのに
これじゃまた甘えてしまう――
「どうして包丁なんて…。
物騒じゃないですか」
ナイフスタンドに戻しながら溜め息を吐く燈冴くんは、たぶん泥棒と間違われていた事には
気づいてない?
それならそれで良いのかもしれないけど…