冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

呑気な桐生さんと話していると気が滅入りそうになり、キッチンへ引っ込む。
私が端っこでうずくまっていると、店長は「少し休んでて大丈夫だよ」と頭を撫でてくれた。

エプロンのポケットに入れていたスマホが震え、しゃがみこんだまま画面を確認する。
【お母さん】からの着信だった。

予想外の人からの電話にグッと苦しくなる。家族もネットを見ただろうか。
私が最悪の妻だとか、ビジネス婚だとか、浮気しているとか、誹謗中傷ばかりだ。

呆れられたかな。
それともちゃんと瀬川さんに尽くせと叱られるだろうか。

出るのが怖かったが、着信のバイブは十回以上繰り返したため観念して通話をタップする。

「……はい」

『あ、芽衣? 元気?』

あっ。なんだか、泣きそう。
電話から聞こえる声は柔らかく、明るかった。

「うん……元気」

『そっか。なんだか大変ねぇ、相手が有名人だと』

「……うん」

『いつでも戻ってきていいんだからね。こっちでもお店開けるでしょ。お母さん、チラシ配りくらいはするよ』

……え?
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