冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「……戻ってきていいの? お店だって、瀬川さんと結婚したから賛成だったんでしょ?」
『そりゃ、飲食店は大変みたいだけどねぇ。芽衣が元気ならどっちでもいいかなって皆言ってるわよ』
やだ、いつもそうやってうちの家族は気分で意見が変わるんだから。軽い気持ちで反対したかと思えば軽い気持ちで賛成して、そしてまた軽い気持ちで帰ってきていいよって言うし。
「……うん」
涙が止まらない。裏返った声の震えを隠せなかった。
「……帰ろうかな……」
絞り出した言葉を、母は『お好きにどうぞ』と茶化す。
「仕事中だから」と切った後も、私は膝に顔を押し付けた泣いた。
すると、再び頭にポンポンと手が触れた。
「芽衣ちゃん芽衣ちゃん」
上から店長の声がし、涙を拭いた。
彼の手についていた小麦粉が髪からパラパラと落ちてきて顔が引き吊ったが、店長は控え室の方向を夢中で見つめていた。
「店長?」
「瀬川さんがテレビ出てるよ。生放送インタビューだって」
私は立ち上がり、同じく控え室に目をやる。
すると画面にはたしかに瀬川さんが大きく映っていた。