冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

都心から外れたこんな小さな通りに高級車を横付けされては困るため、私は彼のマンションの最寄り駅である新宿まで向かうと伝えてある。
よく行くから改札を指定してもらえれば大丈夫だと。

約束は午前九時。会うには早い時間なんじゃないかと感じたが、どうやら彼は予定がなければ朝から詰めていく生活をしているようだ。
今さらだが緊張してきた。自分とはまったく違う生き方をしているとわかっている瀬川さんの自宅に行くのだ。午後まで胃が痛くなるところだったから、朝の約束はちょうどいい。

新宿駅で指定された改札から出ると、構内は人でごった返していた。
待ち合わせの人が柱のそばに何人も立っており、そのなかに瀬川さんがいないかチェックする。

いないな、と人の流れに押されながら歩いていると、「三澄さん」と頭上から呼ばれ、肩に手を置かれた。

「ひゃっ」

「おはようございます。行きましょう」

いきなり現れて自然に隣についた瀬川さんは、白いシャツに黒のパンツというシンプルな私服姿だった。
変装のためかマスクをしており、ミステリアスな雰囲気が増している。
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