冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
かろうじて周囲にバレてはいないようだが、明らかに目を引いている。だから迎えに行くと言ったのか。素直に来てもらえばよかったな。有名人と待ち合わせなんてしたことがないからわからなかった。
大通り沿いに出て五分歩くと、彼のマンションに着いた。エントランスは広く、車で地下へ入れる通路があり、地上の自動ドアからはマンションコンシェルジュがふたり立っている受付カウンターが見えている。
等間隔の電灯が床や壁の大理石に反射し、頭がガンと鳴る明るさに包まれる。この建物自体は新宿へ来るたび目に入っていたが、てっきり高級ホテルだと思っていた。
「おかえりなさいませ」とお辞儀をしたコンシェルジュふたりを、瀬川さんは華麗に無視して歩いていく。もしかしたら、マスクの奥でぼやきくらいはしたんじゃないかと思いたい。
突き当たりを曲がり、すごい数のエレベーターが並んでいるうちの待機していた一番手前の箱に乗り、扉が閉まる。
エレベーターにしては広いがやっと仕切られた空間にたどり着き、まともに呼吸をした。別世界すぎて息が止まっていたらしい。今のうちに深呼吸しておこう。
「……芽衣」
「んっ!?」
隣からいきなり名前を呼ばれ、吸った空気をゴックンと呑み込んだ。