冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
機械仕掛けの音がし、鍵が開く。ドアが引かれたと思ったら扉の内側に引っ張り込まれ、目の前には花ひとつ飾られていない殺風景な玄関に、ひと続きの大理石の廊下が五メートルほど続いている。
突き当たりはおそらくリビングだろうか。廊下のドアはすべて黒で統一されており、なにも見えない。
「お邪魔します」
手を繋いだままパンプスを脱いで一歩上がると、ストッキングの足裏がひやりと冷たくなった。見回してみるがスリッパはなく、瀬川さんも出してくれない。
もしかして、人が来ることが想定されていない?
玄関から廊下へ移ると、彼は私の背後で足を止めた。
「芽衣」
「は、はいっ」
廊下の先が進行方向かと思ったが、彼に呼ばれてそちらを向いた。彼がさらに一歩前へ近付いてきたため、私は後退りをする。
「ふたりきりだ」
「はい。そうですね?」
「好きにしてもいいと言ったが、今からでもいいのか」
意味がわからず、大きく首をかしげる。すでに好きにしてるじゃない。呼び捨てにしているし、敬語も使わなくなっている。