冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

機械仕掛けの音がし、鍵が開く。ドアが引かれたと思ったら扉の内側に引っ張り込まれ、目の前には花ひとつ飾られていない殺風景な玄関に、ひと続きの大理石の廊下が五メートルほど続いている。

突き当たりはおそらくリビングだろうか。廊下のドアはすべて黒で統一されており、なにも見えない。

「お邪魔します」

手を繋いだままパンプスを脱いで一歩上がると、ストッキングの足裏がひやりと冷たくなった。見回してみるがスリッパはなく、瀬川さんも出してくれない。

もしかして、人が来ることが想定されていない?

玄関から廊下へ移ると、彼は私の背後で足を止めた。

「芽衣」

「は、はいっ」

廊下の先が進行方向かと思ったが、彼に呼ばれてそちらを向いた。彼がさらに一歩前へ近付いてきたため、私は後退りをする。

「ふたりきりだ」

「はい。そうですね?」

「好きにしてもいいと言ったが、今からでもいいのか」

意味がわからず、大きく首をかしげる。すでに好きにしてるじゃない。呼び捨てにしているし、敬語も使わなくなっている。
< 46 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop