冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「はい。どうぞ」
手のひらを見せる要領で言葉通りの〝どうぞ〟というポーズをとった。すると彼はその手を握り、グッと引き寄せてくる。
「わっ」と声が漏れ、転びそうになったところを抱き止められた。出会ったときのアクシデントが思い起こされ、頭の中はスローモーションになっていく。
「瀬川さん……?」
玄関横の壁際へ立たされ、繋がれた手は汗ばむのに離れない。圧倒される身長差で見下ろされ、ほぼ壁ドンではないかという距離感。
ふいに、彼は開いている手でマスクを取り払った。
「……え」
思わず戸惑いの声が出た。まったく予想していなかった顔をしていた。頬は紅潮し、口もとは儚げに開き、じっと睨んでいたのかと思っていた目もとは悩ましげに眉を寄せている。息も荒い気がする。
「瀬川さん?」
「止まらないかもしれない」
「はい? ちょっと、どうしたんですか?」
「芽衣……」
瀬川さんの綺麗な顔が、なぜか私へ迫ってきた。