冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
難しい話でなにも気の利いた質問が思い浮かばずしばらく沈黙が続いたとき、誰かが人ごみを掻き分けながら「瀬川」と呼ぶ声が近づいてくる。
「……桐生」
瀬川さんが桐生と呼んだその人は、瀬川さんと同じくらいの若さで、短髪の黒髪にガタイのよいスーツ姿のスポーツマンな雰囲気を感じさせる男性だった。
呼び捨て合っているのだから、仲がよいのだろうか。
桐生さんも瀬川さんとタイプは違うが整った顔つきで、女性の視線を集めている。
「結婚したんだってな。テレビで見た」
彼は私に視線を落としたため、慌てて会釈を返す。
「はじめまして。芽衣と申します」
まだ〝夫がお世話になっております〟と言えるような夫婦関係ではないし、瀬川さんのことすらよく知らないのにご友人に質問などあるはずもなく、名乗る以上の挨拶が思いつかない。
「ふうん。ハジメマシテ。『トップ・エール』マネージャーの桐生太一です。……変な趣味だな」
「……え?」
瀬川さんの女性の趣味が悪いってこと?
その通りだけど、それは私に失礼すぎないだろうか。