冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「はい……すみませんっ……」
もう耐えられなくて視界が潤むが、できるだけ上を向いて涙がこぼれないよう堪える。この場で瀬川さんの妻が泣くなんて許されない。
「瀬川社長。すみません、私のジャケットが合えばよかったんですけど。けっこう細身のものだったので」
もうやめて。
「べつに必要ありません。他人とサイズが合わないのは当然ですし、借りる意味もないですから」
「そうですね。サイズもですけど、デザインも……ふふふ。独特で」
変だと言われている。自分にはファッションセンスがないと常々思ってはいたけれど、実際に笑われるとキツい。
もう消えてしまいたくて、目を瞑ると──瀬川さんが手を握ってきた。
その手からピリッとした感覚が流れ込んでくる。
「……私の妻にワインをかけておいて、ヘラヘラしないでもらえますか」
彼の言葉は冷やかしの空気を一掃し、女性たちの表情を凍りつかせた。
ふたりは顔を見合せ、バツが悪そうに口をつぐむ。
私は瀬川さんに手を引かれながら、エレベーターホールへと向かった。