冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす

無心でボールの中の生地を混ぜ合わせる。ほのかに香る甘い匂いと柔らかで重たい手応え、そして徐々にまとまっていく生地の淡い黄色。
慣れ親しんだこの工程は、いつも私の心を癒してくれる。あのときの寂しい気持ちも軽くなっていく気がした。

今は午前十一時。少しこだわって作って、お昼に瀬川さんと一緒にパンケーキランチにしよう。
初めて食べてもらうことになる。

もう優しい言葉を期待していない。まずいならまずいと言ってもらってかまわない。甘いものが好きかも聞いていないし。

私と瀬川さんの関係はビジネスから始まっているし、それでいい。
こんなに胸をワクワクさせてはダメだ。

生地の準備ができ、グリドルの前に立つ。備え付けられていた説明書を開いて温度設定のページを見るが、これでいいのかいまいちピンとこない。

そこへ、『なにかお手伝いしましょうか?』と声がし、ジータが現れた。
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