冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
彼の表情がいつもよりも朗らかで、私は妙に緊張していた。彼のランチマットの上にパンケーキのプレートを置く手も震える。
「どうぞ」
自分の席に戻っても先にフォークを持つ気になれず、瀬川さんがパンケーキを口に運ぶ様子をじっと見つめていた。
あと十センチ、五センチ、三センチ。
甘いものが嫌いだったらどうしよう。ごく普通のパンケーキでなにも強みなどないかもしれない。
やっぱりやめればよかったかな、瀬川さんに食べてもらうなんて。
目を閉じて感想を待つ。
「……美味いな」
彼はポツリとそう呟く。
「本当ですか!?」
『本当ですよ。うちのご主人は嘘がド下手くそですから』
ダイニングの隅に置物のように佇んでいるジータがそう言い、瀬川さんは彼女を睨む。その目をすぐに柔らかくし、私へ戻した。
「本当に美味い。今まで食べた中で一番美味いと思う」
「ありがとうございますっ……!」
「だが、俺の感想が参考になるかはわからない。芽衣の作ったものだから美味しいと感じるのかもしれない」
それって。どういう意味だろう。
なんだか特別な意味に聞こえ、言葉に詰まった。