猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
流石にこれ以上は私も限界か?と言う所で三毛さんの胸を押して体を離した。

「み、実森さん……」

「お返しです」

「あ、あなたって人は……」

「先にしたの、三毛さんですからね。風邪が移っても知りませんから」

勝った!と、フンッと鼻から息を吐き、勝ち誇った顔をしてやった。

「……ふふっ」

突然、三毛さんが笑い出す。

「何笑ってるんですか」

「いえ。実森さんと一緒にいると、ずっと楽しいなって、幸せだなって思って。ふふふっ……」

笑っている三毛さんを見て、これは褒められているんだろうか?と思った。

「……ずっと幸せにしますよ」

そう呟いたら、ピタッと笑いが止まり、「……ありがとうございます」と三毛さんが微笑んだ。

「…………」

「…………」

私達は無言で見つめ合う。

引き寄せられる様に、顔と顔が近付く。

「ニャーン!」

あと数センチで唇が触れる、と言う所で、今までなんの気配もさせていなかったアールが突然、にゅっ!と私達の間から顔を覗かせた。

「わっ、アールいたの?」

驚いて、パッ!と離れる。

「ニャーン!」

『仲間はずれにしないでよっ!』と言わんばかりに、尻尾をプイッ!プイッ!と激しく振って猛抗議。

「……ヤキモチですかね?」

「かもしれませんね……」

私達は顔を見合わせて笑った。

「ごめんごめん、アール」

プリプリと怒っているアールの頭を撫でながら謝っている三毛さん。

頭を撫でられた事で機嫌が直ったのか、アールはゴロゴロと喉を鳴らして三毛さんの手にジャレている。

それを穏やかな気持ちで見ていた。

(幸せだなぁ)

こんな時間が、ずっと続けばいい。

三毛さんがずっと笑っていられる様に、必ず幸せにしてあげるから。

だから――。

(結子さん、安心して下さいね)

心の中で、結子さんに語りかけた。


    ―『ありがとう』―


声が聞こえて振り向くと、綺麗に直された写真立ての中で、結子さんが優しく微笑んでいた。
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