関係に名前を付けたがらない私たち
 すっかり考えることを辞めてしまった私たち。
 せっかくの旅行なんだし、と温泉に入ったり、浴衣姿で卓球したり、あとは湯煙が立ち昇る温泉街を手を繋いで二人で歩き、石畳に躓いて、こけそうになった私を抱きとめてくれた優希に「やんっ」と馬鹿みたいな声を出してみたり。

「もう、あいぼんは本当に危なっかしいな」
「えへへ」
「ま、そういうとこが可愛いんだけどな」
「もう優希、大好きー」
「俺も好きー」

 バカップル全開の会話を繰り広げながら、夜は夜で睦み合い、耕平のことなど頭からすっかり消えていた。

―――私。そのうちバチ当たるんだろうな

 けれどふと思う。

 別に耕平が許してくれているのなら、神様だってバチの当てようがなくない? と。

 今この状況において誰か傷つく人がいるのだろうか。
 優希に奥さんや彼女がいるわけではなく(多分)、私の彼氏である耕平はなぜか鷹揚に受け止めてくれている。そして私はと言えば、物分りの良すぎる耕平と、甘いときめきと刺激を与えてくれる優希がいる。

―――なにこの最高に幸せな状況。幸せすぎて目眩がする。
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