この恋は、『悪』くない。

「この前の事故
子供が飛び出してきて避けたら転んだんだ」



「そーだったんだ」



「よかった
死ななくて…」



「うん、ホントだね」



「あの子」



気にしないでください

オレなんかケガしても誰も心配しないんで…



「樽崎くんも死ななくてよかったよ」



「まぁ、ね…
アメ残して死ねないしな…」



「うん…」



私も思ってるよ

樽崎くんが無事でよかったって



「沙和、果物食べる?
持って行ってよ」



「樽崎くん、果物嫌いだった?」



「いや…
オレ、ひとりだし
こんなに食えない」



「私だって、ひとりだよ」



「よかったら
お父さんとお母さんにも持って行ってよ
オレ、包丁使えないし…」



「私、むくから一緒に食べよ!
林檎がいい?
梨もあるよ」



「んー、じゃあ梨…
…
オレ、ひとりじゃ何もできないな…」



樽崎くんらしくないな



「樽崎くん…
ひとりじゃないよ
…
アメもいるし…
…
私も
樽崎くんが帰ってこなくて
心配だったよ
…
バイク事故って聞いて
大丈夫かな?って
すごく心配だったよ
…
もぉ会えなかったら
ヤダな…って、ずっと思ってたよ」



10年ぶりに

偶然会った樽崎くん



あの時

会わなかったら

もぉ会わなかった人かもしれない



今

私はここにいないだろうし



「樽崎くん
また会えて、よかった」



「フ…沙和…
オマエ、かわいいな…」



樽崎くんの表情は髪で隠れてて

見えなかった



フワッ…て

優しく



急に抱きしめられて

息ができなくなった



樽崎くん?



「沙和…
いつも、ありがと」



樽崎くんのスウェットの隙間から

息をしたら

樽崎くんの匂いがした



タバコの匂いと

いつもの柔軟剤の匂い



樽崎くんの体温と

樽崎くんが息をする音



樽崎くん

生きててよかった



「家族じゃないけど
樽崎くんがいなくなったら
私は、ヤダよ」



少しでも長く

少しでも近く

樽崎くんの隣にいたいなんて

とても言えないけど…



< 143 / 276 >

この作品をシェア

pagetop